道ログ2

群馬県在住のおじさんがブログを書く

ちょっといい話に触れて

その日は雨が降った。何日か前の話。
 学校から帰ってきた次男がいつものように遊びに行った。雨は上がっていた。
 色々と忙しかったり、自分の中ではちょっと大きなイベントを終えたことなどもあって、夕方少し座ったままうとうとしていたら、次男が帰ってきていた。
 5時を少し回っていたけど、門限に少し遅れたくらいで怒ることもないと思って、おかえり、とだけ言って作業を再開しようとしたときに、次男の様子がおかしいことに気が付いた。違和感みたいなもの。
 もう一度彼の方を見る。所在なさげに立ち尽くす。怒られることを恐れているようでもあるし、どうしていいかわからないようでもあり、何か言いたいけど言い出せないようでもあり。

 どうしたの。

 そう言おうとしたときに。彼の指先にいくつも貼られたばんそうこうに気が付いた。「あらま。どしたん」と言った。
 そこで初めて彼の全身に視線をまわした。半ズボンからのぞく膝にも傷があって血がにじんでいる。
 顔、ほっぺたにも擦り傷。

「転んだの?」

 こくり、と彼はうなずいた。俺は心の中で笑った。あるある、と。俺も小さい頃自転車で転んでケガをして泣く泣く帰ってきたことがあった。

「どこで。いつ。どんな風に?」
 立て続けに聞いてしまって、彼の返答を待ってもよくわからない。泣きたいけど我慢しているようでもあるし、やっぱり泣きそうでもないし。
 そこでまた違和感を感じる。あれ、であれば、このバンソウコウは、誰が? お友達のママ? この傷のまま遊んできたのか? それにしてはテンションが低い。帰りに転んだ? では、このバンソウコウは、誰が?
 もどかしい思いを感じながら、彼の話を待った。ゆっくり、ゆっくり。

 彼の話を総括するとこういうことだった。
 彼が友達の家からの帰り道、近所の公園を通るときに自転車で坂道を下る際に転んだ。けっこう派手な転び方だったのだろう。彼は泣いた。
 そこへ通りがかったのは、近所の私立中学に通う女生徒さん。その子が、公園隣の公民館に次男を連れて行ってくれて、公民館の職員さんが手当てをしてくれたそうだ。

 そして彼は自力で帰ってくることができた。自転車のカゴはへこんでいた。
 次男はその夜夕飯も食べられたし、お風呂もシャワーだけだけど入ることができた。翌日学校へも行けた。ただ、プールだけは欠席にした。

 俺はケガをした次男を見ながら、なんだかとてもうれしくなった。
 中学生の女の子のやさしさに触れることができたから。下校途中の中学生が、小さな男の子が泣いている姿を見て、手を差し伸べてくれて、おそらく優しくしてくれたのだと思う。次男はだから、泣いていなかったし、すぐに元気を取り戻したのだろう。
 名前もわからない中学生に、とても素敵なプレゼントをもらった気がした。次男にも、そして中学生である長男にも、そういう人になってね、と話をした。

 翌日、公民館と、そしてその中学校へお礼に行った。
 公民館でもその生徒さんの名前などはわからないということだったけど、間違いなくその中学校の女生徒さんだということはわかった。
 中学校ではなんと、教頭先生が対応してくださって、話を大げさにするつもりもなかったのだけれど、とてもうれしかったですありがとうございました、とお伝えすることができた。もしその女の子が誰か分かった時には、教頭先生のあの様子では、誇らしげに褒めてくれることだろう。彼女はそれだけのことをしてくれたのだから、大いに褒めてあげてもらいたいと思った。