道ログ2

群馬県在住のおじさんがブログを書く

上々颱風の魅力

 一昨日から静岡行ってまして先ほど帰ってきました。土曜日だし奥さんも仕事だしってことで、頑張って早く帰ってきたのですが、帰ってきた途端に子供が二人とも遊びに出かけるという珍事が発生し、へこんでおりますお元気ですか?

 行きに圏央道が工事通行止めで。
 関越乗ってから知ったんですよ。東松山のインター乗るときに「あきるの〜八王子通行止め」って書いてあって。まじかよと。
 ソレマジなのかよと思いまして。まあ色々悩んだんですけど、あきるのインター出口でも渋滞が発生しているということだしその先一般道も混んでるだろうと思ってもうこうなったら都内入って環八抜けるか? と思っていたんですけど時間がちょうど5時になるところで平日だしどうすんだよこれ、みたいなことになってる間に見事に鶴ヶ島JCTを通過してしまい、環八を久々に通ってきたしだいです。

 で、俺がいない間にGoosehouseが片平里菜ちゃんをゲストに迎えた動画をアップしていたようで見ていたんですが、どこからどう迷いこんだか、上々颱風の動画を眺めてしまいました。



 俺ね、上々颱風好きだったんです。学生時代。ライブも何回も行った。
 なんでこんなの好きになったんだろう、と思うのですが、そのきっかけはささいなことでした。
 当時俺は劇団に所属していて。だから、大学3年生でしたね。稽古の帰りに電車に乗っていたんですね、奈良在住の怪しい植木屋(劇団員)と共に。
 そしたら「おいマルこれ見てみ」と言うんです。怪しく。
 見ると車内の宙吊りポスターで、奈良公園でライトアップイベントをやりますよーみたいな広告でした。

 当時オレも含めてみんな酒飲みで、どこかに出かけては節度なく酒を飲むということを繰り返していまして、そういうイベント事があると、行きたくなるものでした。
 
「これ今度みんなで行ってみよかな、どや、マル」
 言うんですよ。
「へえ、いいですねえ。無料コンサートとかもあるんですって」
「ほんまやな。これあれや、あっこの野外ステージやな、マルも知っとるやろ」
「ああ、あっこね」

 それが、上々颱風でした。

 当日、数人の劇団員とJR奈良駅前で待ち合わせ、奈良公園へと歩いて行きます。ライトアップイベントの時期だから、夕方にかけて。
 JR奈良駅から奈良公園(いわゆる大仏さまのところとか春日大社興福寺辺り)までは、三条通をまっすぐ、15分くらいでしょう。途中冷えたビールを買ったりしながら歩いたことでしょう。
 そのステージは、だだっ広い芝生広場にあって、特にナニカで囲われているわけでもなく、ほんとにただステージがぽつんとあるだけのところで、ほんとにこんなところでコンサートなんかできるのかいな、というところでした。
 客席もあるわけでなく、ただステージの前にロープが一本張られているだけで、数少ない観客がそのへんに自由に座って、見ているのか見ていないのか、という感じでした。ちびっ子とかもきゃあきゃあ走り回っていたし、当然鹿もうようよいるわけです。

 俺達もステージから遠くのスペースに陣取って、ライブを見るというより、その場で酒を飲もうというそういう体制になったところ、コンサートが始まったわけなんですけど、結論言ってもうその瞬間にどっぷりはまってしまったわけですよ。
 音楽がどうとかそういうことはわからなくて。ビジュアルなんかも遠目でさっぱりわからないし。ただ音が聞こえてきて、遠くのステージでナニカをやっている、というだけだったんですけど、もうね、目が離せなくなりました。

 もうあんな感覚は初めてで、コンサートとかライブっていうのは一体感で盛り上がる! みたいなイメージあるし、「みんなノッてるかいベイビー」みたいな、そういうもんだと思ってたんですよ。それが全然なくて。
 奈良公園の芝生で繰り広げられる無料コンサートなもんですから、当然上々颱風のファンなんか数えるほどしかいないわけですよ。大半は知らなくて、ただなにかやるからそこにいるだけの人たち、その人達を相手に、ステージの上で上々颱風のメンバーが、ある意味で淡々と演奏をしていくんですけど、なんていうかその絶妙な距離感。客席と自分たちとのその距離感をじわじわ詰めてくる。ステージがじわじわと広がってくるような、客席を少しずつ気付かれないようにステージが飲み込んでいくような、そんな雰囲気ですよ。それでこう、なんていうか、いつの間にか客が踊っているんですよ。

 そして東北弁なまりのある白崎映美さんのトークがゆるい。
 俺は彼女のことを日本一のホステスだと思ってるんですけど、とにかくゆるい。それでいて鋭い。

 一曲やって映美ねえさんが喋ったあとの、その後の力の入れようが半端無いんですよ上々颱風は。そこで一気に持っていくんですよね。こりゃもうダメだと。確かその時はカラスかねもん勘三郎だったと思うんですけど、それ持って来られて、ステージでみんな踊ってて歌ってて、空は暗くなるしライトアップはキレイだし、ああもうダメだってことになったんです。
 俺踊ってた。ビールうまくて楽しくて踊ってた。

 うちの劇団員はみんなひねくれてて、大体いいものをいいと褒めないようなやつばっかりだったんですけど、その夜ばかりは、絶賛しないまでも、「これはいいものを観た」と口々に言い合ってましたね。もちろん誰も上々颱風なんて知らなくて、その夜が初めて見たわけなんです。

 ある1人のひねくれた男がこう言ったのが印象的で。

「あれな、何がすごいってな、みんな楽しそうやねん。あんなに演者が楽しそうにやられたら、そら見てる方は楽しくなってまうわな。すごいわあの人ら」

 ああ、なるほど、と思った。
 ほんとにそうだと思った。上々颱風は、自分たちのことを知ってる人がほとんどいない状況で、あんなに楽しく演奏できるなんてほんとにすごいと思った。ハタチの俺はすげー感動した。一応、舞台を創ることをしている者の端くれとして、上々颱風を目指そうと思ったのはこの時だった。

 それと同時に、その男のバンドのライブは、いつ見てもメンバーたちが辛そうにやってるよなあ、と思ったものだった。