クワガタがいなくなった日
今年の夏前に、次男がお友達の家に遊びに行ってきたら虫かごをもって帰ってきた。
一瞬意味がわからなくて、何が起きたのか心配で不安で泣きそうになったが、彼の話を総括すると、お友達のお父さんがクワガタを一匹くれたらしい。
クワガタをいただいたことは非常にありがたいことなのだが、俺は残念ながら生き物には興味が無い。長男が小さかった頃はムシキングブームで、一体あんなものにいくらつぎ込んだんだろうと頭を抱えたくなるような時代だったが、今は妖怪とかけん玉とかがブームらしく、あまりクワガタには子どもたちは食いつかない。
ともあれ、いただいたクワガタを大切にするべく、木のクズみたいなのや餌になるゼリーなどを100円ショップで購入し、日々見守ることにした。
名前がないと不便だということで、奥さんはエリザベスと呼び、俺はゴンザレスとかクワジロウとかロッテンマイヤーさんとか呼んでいた。
なかなか浸透しない名前だったが、「エリザベスにゼリーあげた?」とか「スイカの皮、ゴンザレスにあげよう」とか言えば通じたから不便はしなかった。
次男も含めてあんまり熱心に世話をしていなかったので、この子は長生きをしないだろうと思っていたが、夏が終わってもクワジロウは元気だった。
朝になるとよく虫カゴの天井とケンカをしていて、ツノでプラスチックを強くこする音がパキッ、ペキッ、と不気味だった。
秋になって涼しくなって俺達もエリザベスのことを忘れかけていたある日、
「あれ、ロッテンマイヤーさんに最近ゼリーあげた?」
という問いを誰もが無視した。
これはいかんと思い、次の日、久しぶりに虫カゴの中をあさってみた。
いなかった。
何日か前まで確かにいたはずの、クワガタがいなかった。
「そういえば蓋がちゃんと閉まってなかったよね」
と誰かが言った。そうか、それなら仕方ないと思った。きっと最近お盛んなネズミさんにでも食べられてしまったのだろう。ネズミはクワガタを食べるのだろうかどうなのだろうか。でもきっとそうに違いない。と思って、今日このエントリーを書こうとしていた。
そうしたら昼過ぎに母が言った。
「クワガタが廊下歩いてたから捕まえてザルかぶせておいたよ」
もらってきた虫カゴには、2ヶ月前のお祭りで我が家に来たまま棲家がなく洗面器に放し飼いにされていた金魚がすでに収められていた。
クワガタは台所の机の上で、ナスと格闘しながらザルをかぶせられている