白いタイヤキと栗まんじゅう
今日会社で白いタイヤキが話題になっていた。誰かが差し入れたらしく、何人かの社員さんが食べていた。俺は甘いものは苦手だし、大事な会議の前で胃が痛くてお断りした。
白いタイヤキ。最近話題らしい。ほんとに白かった。タピオカでできてるとかなんとかで、見た感じすごい違和感があった。病気の魚みたいな、白いタイヤキだ。
奇しくも今日おつかいを頼まれて市内で古くから売られているまんじゅう屋さんでまんじゅうを買ってきたところだった。俺が小さい頃からあるまんじゅう屋で、自分で買ったのは何十年ぶりくらいのことだった。
その店の前はよく通った。いつ前を通ってもご夫婦がえんえんとまんじゅうを焼いていた。狭い店内には焼き上がりを待つご年配のお客さん。実家から歩いて5分もかからない場所にある、お店だ。
昔からあるが、変わらない店だ。俺が中学生くらいのときに店舗権住宅である建物が新しくなり、俺が大人になってからは駐車場が増えていた。
変哲のない、あんこの入ったおまんじゅうで、鈴のような形をしている。丁度野球のボールくらいの大きさで、大判焼きを丸くしたようなものだ。違うと言えば、焦げ目がついていることと、丸い形状なのであんこがたっぷり入っていることだった。
何十年ぶりにそのまんじゅう屋へ行ってきた。
車を停め、店の前に立つ。ご夫婦は道路に面したガラス張りのお店で、道路に向かっておまんじゅうを焼いている。いつもの光景だ。50個は裕に焼けるであろう鉄板はフル回転でまんじゅうが焼かれていた。店内にはすでに2,3人のお客さんが待っていた。
サッシの引き戸を開け、狭い店内を見回すと、見事なまでになにもない。
店に入った右側が焼き場でありレジになっており、客がいるスペースは2〜3畳くらいしかないかもしれない。
正直値段も分からずだったのでちょっと不安もあった。大判焼きが大体100円〜120円くらいだろうかと想像すると、おそらくそれに近い値段だろうなー。とは思っていた。
店内入って右側がすぐレジになっていて、レジには愛想のないおばちゃんがいた。そのおばちゃんの横には、白い紙に筆で手書きで書かれた値段表だった。
10個900円。
1個90円
きゅ、きゅうじゅうえん! 安い! やすいじゃないか。てことはこれ、ほとんど値上げしてないんじゃないの?
おばちゃんにあのすませんと声をかける。すると
「おまんじゅうですか?」とおばちゃん。
まんじゅう以外にねえだろと思いつつ「あ。はい。」と答えると
「時間かかっちゃいますけど。」
まあ、すでに二人お客さんも待っているしそうだろうなと思い、「結構ですよ。20個ください。一時間後くらいにとりにきます。」
と名前を伝えて店を出た。
それにしても90円か・・・ と感心しながら車に戻り、お昼を食べてまた店に向かった。
お願いしていた者ですが、と声をかける。またしても二人ほどお客さんが待っている。
さっきと違うおばちゃんが「はいはい。20個ね。できてますよ。1800円です。」
え。。。 せんはっぴゃくえん?
税込みだった。これは安い! しかも焼きたてて熱々なのだ。
繁盛するわけである。
まだ熱いまんじゅうの箱を抱え、事業を拡大することなくひたすらにおまんじゅうを焼き続けてきたご主人は、勝ち組だなあ。と思った。
小さな小さな田舎のおまんじゅう屋さんから、理想のサービスを学んだような気がした。
俺が目指すサービスは、白いタイヤキではなく、栗まんじゅうである。